2011年6月23日木曜日

福島原発事故について-その5

成都パンダ


又々遅くなったが、「今抱えてしまった大きな問題点」のうち今回は3番目についてです。
1.東電と政府の損害賠償責任について
2.福島原発放射線の影響と対策
3.福島原発事故の実態解明
4.日本の原発政策の本当の意義とは?
5.日本経済に与える影響と増税の可否

3.福島原発事故の実態解明

IAEAの閣僚会議で事故の実態に触れた部分も多いのでその論議の内容を確認してみる。

元々IAEA(国際原子力機関)という組織の性格は核拡散防止の為の核の査察を担う「核の番人」で、原子力の平和利用の推進と軍事使用防止を図る目的の国際機関であり、本格的な事故の実態解明が期待できる組織ではない。その限界を踏まえた上でIAEAの原子力の安全に関する閣僚級会議に提出された、IAEAの現地(福島)視察調査報告書に関する報道は添付の通り。
 http://jp.wsj.com/Japan/node_251746
 
これとは別に広瀬研吉・内閣府参与が日本政府の331ページにも及ぶ調査報告書を提出している。
http://www.kantei.go.jp/jp/topics/2011/iaea_houkokusho.html

会議では加盟国から事業者責任の曖昧さを指摘する声が相次いだ。現場で判断出来る事(ベントや海水注入)を上に指示を仰ぎ時間がかかった、と指摘された。全体会議で原発の安全基準強化等を柱とする閣僚宣言を採択。安全基準や役割の強化、IAEA専門家による定期的な安全評価の活用、規制当局の独立性の確保、万一の原発事故に備えた国際的な損害賠償体制整備の必要性にも言及した。
天野事務局長からの各国の原発の安全性評価のための抜き打ち的な検査の導入提案も歓迎された。
この組織の原発の安全確保についての具体的活動があるのかどうか、今後も注目していきたい。


(1)日本政府のIAEA向けの調査報告書の概要(6月7日発表)

原子力災害本部が作った日本政府の調査報告書はⅠ~ⅩⅢ章に及ぶが今回は事故の実態に関連の強い箇所に絞って確認する。


1.はじめに 
事故報告書としては暫定的なもので原子力安全と原子力防災に関する技術的事柄であり原子力損害賠償、社会的影響については取り上げていない、と断っている。


2.Ⅰ章 事故前の原子力安全規制等の仕組み
日本の原子力災害対応は1999年のJCOの臨界事故後に制定された「原子力災害対策特別措置法(原災法)」に基ずいて実施される事になっており今回はこの法律に基づいて対応した。
経産省の中にある原子力安全・保安院が安全規制を担当する一方、文科省が放射線のモニタリングを担当するなど、安全確保に関係する行政組織が分かれていたことは「事故に対応する上で問題があった」と指摘している。
その上で、原子力政策を進める立場の経産省から規制当局の保安院を独立させることや、原子力安全委員会などの関係組織を集約することを検討するとしている。
(私の意見)
全くその通りであり早期に実効性のある組織に改変する必要がある。しかも非実働の名誉職で緊急時に全く役に立たない御用学者や経産省官僚の天下りの頭でっかちの組織は大幅にスリム化すべきだ。一方原発の危険性の管理・高濃度放射性廃棄物の管理・廃炉の管理等の堅実・真面目な技術者の組織にして大幅な権限を付与していくべきである。


3.Ⅱ章 東北地方太平洋沖地震とそれによる津波の被害
地震によって福島第一は外部電源6回線全てに被害。原子炉本体には大きな損壊は見当たらないが詳細は未明と保留している。
(私見)
一体原子炉本体に大きな損壊がないとは何をもって言えるのか?本体とは安全容器だけを指しているのか?


津波は7波に亘って襲来。最初は地震発生41分後、その6分後に次ぎの大きな波。2002年の原子力発電所の津波評価技術(土木学会)で最高水位が5.7Mとされていた今回の津波は14~15Mに達した。全機の補機冷却用海水ポンプ施設が冠水して機能停止。
6号機を除き原子炉建屋やタービン建屋の地下階に設置されていた非常用ディーゼル発電機及び配電盤が冠水して機能を停止した。
このような大規模な津波の襲来に対する想定と対応がなされていなかった、としている。
(私見)
6号機は非常用ディーゼル発電機が唯一最新の空冷式だったので無事だったのか?
4月27日の衆議院経済産業委員会で共産党の吉井議員は、この外部電源喪失は地震による夜の森線の受電鉄塔の倒壊が原因と追及。原子力安全保安院の寺坂院長はこの受電塔には津波が及んでいない地域にあった事を認め全電源喪失は津波が原因ではないと答えている。しかしこの重要な事を事故報告書では何気なくさらりと記述しており印象を曖昧にしてしまっているのは問題であろう。


4.Ⅲ章 福島原子力発電所等の事故の発生と進展
1992年から取り組み始めたアクシデントマネジメント対策の実施は安全規制の法律上の要求事項になっておらず事業者が自主的に実施し国がその報告を求めるという事になっていた。
福島原発の対策は原子炉停止機能、原子炉及び格納容器への注水機能、格納容器からの徐熱機能、安全機能へのサポート機能の4つであった。
(私見)
結局の所、アクシデントマネジメントの大切さについては東電に委ねられていたが、経営陣は業績維持拡大しか関心がなく普段はむしろ安全コストの削減に動いていた事が明らかになって来ている。事故が起きた時のうろたえようは正視に堪えず、その段階でも利益擁護策にのみかまけており日本のトップ企業の経営者の頽廃ぶりを曝け出した。その後の経緯は多くの情報が流布されているので事故発生状況は省略する。


5.Ⅳ章 福島原発の各号機の状況
各号機毎に説明があるが、ここでは激しい爆発のあった3号機のみに焦点を絞って見てみる。3号機はMOX燃料を使用しており3号機爆発の映像を見ると本当に単なる水素爆発なのか?という疑念が拭えないからである。
①3月11日14時47分地震により原子炉がスクラム(緊急停止)。地震の為外部電源喪失。非常用ディーゼル発電機2台が起動。15時42分津波により非常用ディーゼル発電機2台が停止し、全電源喪失に至った。
(私見)
いったんは起動して1時間近く動いていたのか!?


②15時5分原子炉隔離時冷却系(RCIC)を手動起動した。15時25分水位が高くなった為自動停止。16時3分手動起動し3月12日11時36分停止。
(私見)元々主電源と補助電源が喪失した時、原子炉内の崩壊熱で生成した蒸気による一時凌ぎのもの。


③3月12日12時35分高圧注水系(HPCI)が原子炉水位低で自動起動したが3月13日2時42分停止。原子炉圧力低下の為か、HPCI系統からの蒸気流出の為か?
(私見)
この配管は津波の影響を受けにくい原子炉建屋内にあり、破損が事実なら地震の揺れが原因の能性が強く全国の原発で耐震設計を見直す必要が出てくるもののようだ。


④保安院の評価結果は3月13日8時頃に原子炉水位低下により燃料が露出し、その後炉心溶融が開始したという見解。溶けた燃料の一部が原子炉圧力容器の底が損傷して(格納容器の底に)落下して堆積している可能性も考えられると、メルトスルー(溶融貫通)を認めている。
(私見)東電がこの見解を認め公表したのは5月25日になってから。あまりに遅すぎる。この隠匿は犯罪行為に近いのではないか。しかもいまは単なるメルトスルーどころでないチャイナシンドロームに近いような事態に進展しているようだが。


⑤3月14日5時20分格納容器ウエットウエルベント11時1分原子炉建屋で爆発。
(私見)この点についてはサラリと水素爆発としているがこの時の小さな核爆発のようなきのこ雲を見た多くの人は、単なる水素爆発とは次元の違うものだという印象は拭えないままだ。何か重要な事を隠匿しているのでは?と大きな疑念を抱いている。


6.Ⅴ章 原子力災害への対応、Ⅵ章 放射性物質の環境への放出、Ⅶ章 放射線被爆の状況、Ⅷ章 国際社会との協力、Ⅸ章 事故に関するコミュニケーション、Ⅹ章 今後の事故収束への取組み、ⅩⅠ章その他の原子力発電所における対応、ⅩⅡ章 現在までに得られた事故の教訓は今回は省略する。


<最後に>
6月7日に事故調査・検証委員会がスタートしている。畑村洋太郎委員長ら10名で、関係者からの聞き取りや現地調査を行い年内に中間報告を出すという。又①東電・政府の事故直後の対応、②原発の安全規制・体制を優先課題にするという。目先の小さな対応の適否や組織いじりに止まらず、原発の持つ環境破壊と生命の危険の根本的問題を根底に据えて取り組んで欲しいものだ。この会にも期待はするが、それよりも一人一人の国民による具体的行動の方が放射線被爆を減殺する為には必要だと考えている。
原発立地の県・市町村の特に首長の判断がこれ程注目され重要な時もなかっただろう。各原発の動きも丁寧にウオッチし、ささやかでも自身も行動していきたい。

2 件のコメント:

  1. IAEAへの報告書は添付資料4-1と4-2を確認が大事です。
    更に東電HPからプレスリリース5月16日のデーターを見るにも
    大切です。 疑問が幾つか紐解けます。

    あまり予備知識無しにここを読んでどう理解するか?

    その後に
    IAEAの報告書の添付資料4-1(東電解析)
    http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/backdrop/pdf/app-chap04-1.pdf
    P44原子炉圧力は~ (RCICとHPCIは外部から水入れて冷やす装置SRVは逃がし弁)
    P46(図3.3.1.2に注目)HPCIが東電の設計どうりに作動の場合
    P52(図3.3.1.10に注目)HPCIから漏洩があった場合
    しかも何故か漏洩ケースの図は僅か2枚(1~3号機の他の解析は全て図が9枚あります)
    です。

    さらに
    http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/backdrop/pdf/app-chap04-2.pdf
    IAEAの報告書の添付資料4-2 (保安院外部委託解析)
    P3  1・2・3号機のそれぞれの解析の数に注目
    P40 東電解析のたとえばで述べてある漏洩解析がされていない
    この添付資料4-1と4-2を並べて考えると
    3号機漏洩検証に対して保安院の何かしらの意図を感じませんか?

    上記を踏まえて再度、佐賀県への見解(3号機HPCIの記事)を再度よんでどう感じるか?が注目すべき点です。

     決して「今後も調査が必要」との姿勢ではないことが読み取れると思いますし、
    「炉心の状態に大きな変化はなく、今般の事故拡大への影響があったわけではない」
    と恥ずかしげもなくよきいいきれるなと、我々国民・県民が知らない事を利用したあこぎな手法に怒りを覚えると思います。

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  2. 貴重なご指摘有難うございます。素養がある人はごく少数なので私のような素人の直感からスタートしている認識のレベルを少しでも深める契機にさせて頂きます。

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