2012年3月14日水曜日

世界の金融経済の動向について

始めに>
今はまだ欧州危機が注目を浴び続けているが、これが今後日本にどう波及して来るのかについて、とても分かり易く面白い本があるので、その概要を纏めつつ日本の近未来について考えてみた。
私の基本認識は、本当の金融危機にある米国が日本崩しを狙っており、その一手段に「日本国債崩し」戦略がある。それに対しキチンと認識し、防禦体制を固める必要がある、という事です。

書名:「ブーメラン」マイケル・ルイス著、東江一紀訳、文芸春秋刊。

著者:1960年ニューオリンズ生れ。プリンストン大学→ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス
→ソロモン・ブラザーズ→作家

副題:欧州から恐慌が返ってくる、メルトダウン・ツアーにようこそ!!!

内容:
序章  欧州危機を見通していた男
第1章 漁師たちは投資銀行家になった
第2章 公務員が民間企業の三倍の給料をとる国
第3章 アイルランド人は耐え忍ぶ
第4章 ドイツ人の秘密の本性
第5章 あなたの中の内なるギリシャ
解説  藤沢数希

【序章の概要】
サブプライム危機の最中の2008年末、大儲けしたその男(カイル・バス)の関心は、遠い外国にあった。「これはもっと大きな危機の兆候にすぎない。ギリシャは2年以内に破綻する」

アメリカの住宅ブームが長続きしないだろうと思っていた人々は大勢いたが、CDS市場でアメリカ金融界が広範囲にわたって焼け落ちるほうに賭けた人間は、ほんの15人程で、そのほとんどがロンドンかニューヨークにあるヘッジファンドの経営者。そのうち著者の取材に応じたのがヘイマン・キャピタルのカイル・バス一人だけだった。
カイル・バスはベア・スターンズで債権セールスを7年。貯めたおカネと集めたおカネをサブプライム・モーゲージ債市場崩れに賭け、ベア・スターンズも含め崩壊したが、カイル・バスは財をなした。

バスが新たに夢中になったのは、国家。ウォール街の投資銀行が組んだ怪しげな有価証券絡みのリスクをFRBが吸収。他の裕福な先進諸国の政府も、アメリカと同じような対応をしていた。
豊かな国々の公的債務は急速に膨らんだが、そこには各国の銀行システム内部の債務も含まれていて、新たな危機を迎えると政府に転嫁される事になる。

バスは独自に4カ月かけデータを収集。アイルランドは1年あたりの税収の25倍の債務を貯め込んでいた。スペインとフランスは歳入の10倍。歴史上はデフォルト水準だ。→国のバランス・シートについての第一人者ケネス・ロゴフ(ハーバード教授)も情報を持たずこんな酷いとは信じ難いとしていた。
ギリシャ、アイルランド、日本等では金利が少し上がっただけで、国家予算がそっくり債務の金利支払いに費やされる事態に立ち至ってしまう。その事に市場が気付いたら投資家の心理に変化が訪れる・・・
恐らくギリシャが真っ先に潰れて、もしかするとユーロ崩壊の引き金になるかも知れない・・・いつになるか迷うが早く安いうちにCDSを買っておこう・・・その通りだとして一般の人間に何が出来るか・・・銃と金の現物を買いなさい

2年半経った2011年夏・・・ギリシャはまさに債務不履行の瀬戸際に、アイルランドとポルトガルは大々的な救済措置を求めている、日本の財務相は代表団を米国に派遣して10年物国債5千億ドル分の買手探しにピムコやブラックロック等の大手債権ファンド巡りをしていた。・・・カイル・バスは日本とフランスの破綻に賭けている・・・2度に亘り正しかったカイル・ボスの原点はアイスランドを巡るボードゲームが基点のようだ。

【第1章の概要=アイスランド】
人口32万人余の漁師の国に2003年突然アメリカの投資銀行家が押し寄せ「重要なのは金を借りて買って値段を上げること」と煽られ、漁師たちがぼろ資産を買い漁るにわか投資銀行家になり金融国が誕生したが2008年破綻。悲惨な状況になっている顛末が滑稽で、失礼だが面白い。

→東大をトップで卒業した(聡明な筈の)著名な元官僚の一流経済学者?野口悠紀夫氏は破綻前アイスランドを日本も見習い金融立国を目指すべきと絶賛していた。今でも何故か権威?です。
(今の公的年金制度の矛盾の分析・指摘も正しそうだが、この見解も盲信は出来ません)

【第2章の概要=ギリシャ】
公務員が民間企業の三倍の給料をとる国。その上賄賂を受け取る公務員がゼネストをうつ!倒錯の国。徴税も選挙の年はまともに機能しないし、土地登記もないらしい・・・20年前当時の財務相が、ギリシャの鉄道利用者を全員タクシーに乗せたほうがまだ安上がりと言っていた・・・今回の破綻危機では男55歳女50歳からの手厚い年金は世界中に有名になった。

ユーロに加盟する為には財政赤字をGDP比で3%以下にしなければならなかったギリシャは国家支出を粉飾してユーロにもぐりこんだ。粉飾を演出指導したゴールドマン・サックスはギリシャが意のままに金を借り、使えるからくりを作り、宝くじ収益や高速道路料金、空港税、EUからの資金援助まで証券化した。
→経営の苦しいゴールドマン・サックスが今これを明らかにしたのは、米国の危機から眼を欧州に逸らす意義も大きいのではないか。まさに文字通りのマッチポンプです。

事態が一変したのは2009年10月ギリシャ政権がギリシャ正教の聖地アトス山のヴァトペディ修道院が資産価値の無い湖を政府に売り付け、価値の高い官有地と変えたスキャンダル(恐らく贈賄)で倒れ、替ったパパコンスタンティヌ財務相が財政赤字を3.7%→2週間後12.5%→実際14%近い事が判明と発表してからだ。・・・それにしても修道院のトップ2人は凄腕だったようだ。

減免して貰ったとはいえ、莫大な借金を抱えばらばらな私利を追求するのに馴れきったギリシャ人の生活の再構築は可能なのだろうか?

【第3章の概要=アイルランド】
人口450万人。1938年イギリスから独立し1949年英連邦からも脱退した国だ。
外国から資金と人が流れ込み、由緒ある三大銀行が不動産融資に狂奔。しかし、そのバブルが弾けると銀行の借金を政府が保証、納税者であるアイルランド人はじっと耐える事を強いられている。

アングロ・アイリッシュ銀行(世界広しと言えどこれ以上に酷い銀行はないらしい)。アイルランド銀行、アライド・アイリッシュ銀行と併せ、資本主義者が故意に資本主義を破壊する時代とはいえ、この国の銀行家達ほどの記録的スピードで破壊した者は存在しない。金を借りた人達が自分達同士で土地を買い、一時は謎の経済成長を果たし10年近く魔法にかけられたような暮らしを送った後に多額の損失を抱えたのだ。途中でモーガン・ケリー・ダブリン大教授が警告を発したが誰も聞かず、皆がソフト・ランディングする見こみ等と言いながら・・・今や政府・銀行はアメリカの投資銀行家と、豪の経営コンサルタントと、ドイツ人等のEU幹部に占領されてしまった。

国民は大勢のポーランド人等の移民労働者と共に故国を離れようとしている。失業率も14%、政府の財政赤字はGDPの32%。誰もが落ちぶれてしまっても殆ど騒がず耐え忍んでいるのだ。

【第4章の概要=ドイツ】
ドイツ人の秘密の本性。危機に陥る欧州諸国の中でドイツだけが頼みの綱だ。ドイツ人がギリシャ人の放蕩の付けを自分達が払わなければならないのかという問いに直面している。ヨーロッパ金融の命運を握っているのはドイツで、本質的にドイツの通貨であるユーロの恩恵に与りたいならもっとドイツ人らしさを身につけるしかない。

ドイツの特異性=他の国々は外貨を燃料にさまざまな愚行に走ろうとする。ドイツ人は銀行を通じて自分の金を外国人に差し出し、愚行に走らせようとする。借入ブームの中、ドイツの銀行家は、わざわざ泥にまみれようとしたのだ。アメリカのサブプライムに、アイルランドの不動産貴族に、アイスランドのにわか金融業者に、ギリシャにも・・・金を貸して、ドイツ人が絶対しないような事をさせた・・・
国内では慎み深いのに・・・

ドイツの銀行=ニューヨークほど金融機関に監視の眼が行き届いている所は無いと信じていた・・・一方ニューヨークでは「こんなくずを買う奴がいるもんか。待てよ、ベルリン州立銀行がいる!」と言っていたのに・・・デュッセルドルフのIKBもロンドンの債権セールスから「汲めども尽きぬ現金の泉」と言われていた・・・アメリカ人が公式ルール以外のものに則ってゲームをしている可能性に気付かなかったのだ。トリプルA債権の過去の実績を見てリスクは存在しないと鵜呑みにしたのだ・・・

反ユーロエコノミストはユーロを2種類発行し二線級はギリシャ、スペイン、イタリア等の踏み倒し国、一線級をドイツ、オーストリア、ベルギー、オランダ、フィンランド、迷ってフランスも入れてあげる案を言っている位だが、どう決着していくのだろうか。
→個人的には長い目でユーロの復権を信じている。

【第5章=カリフォルニア州】
ギリシャで起こった事は対岸の火事ではない。飽食の末に、立ち行かなくなった自治体があちこちで悲鳴をあげる。誰もが自分の事しか考えないとき、大事なものが失われる・・・

<アメリカの不思議な優越的立場>
格付け機関がアメリカの信用格付けを史上初めて引き下げた直後アメリカの国債が急騰し、新発の十年物国債の利回りが過去最低の2.04%に落ち込んだ・・・要するにアメリカ政府には白地の小切手が与えられているのだ。不安定さが臨界点を超えると反転するのだが・・・
→ドルの崩落は本当に起こり得ないのだろうか?

①アメリカの年金原資の深刻な状況
2010.12.19米国ニュース番組「60ミニッツ」でウォール街の民間アナリストのメレディス・ホイットニーが、アメリカの地方自治体の赤字は年間五千億ドルを超えており、定年退職者に支払うべき金額と、実際に手元にある金額との間に一兆五千億ドルの開きがあり・・・この数字も楽観的な誤差を含んでいて・・・深刻度は変わらない。支払いは不可能なのだ・・・しかし州が債務不履行になるのでなく押し付けられる郡や市に深刻な問題が発生する、と発言→翌日地方債市場が暴落。→各州の経済の縮小が大きいのが原因のようだ。

1980年に州の年金原資のうち株式市場に投資されたのが23%だったのが、2008年には60%に拡大している。FRBが金利ゼロなのに年利8%を標榜、資金不足の医療保険制度、州への交付金の削減、景気の軟調が重なっているのだ。

②最も危ない州カリフォルニアと一番憐れむべき市ヴァレーホ
2004年から7年間舵取りをしたシュワルツネッガー知事。就任2年目で州の支出に対する制限、自党に有利な選挙区改定の禁止、公務員組合の選挙費の制限、学校教師の在職期間の延長の4案全て否決された。カリフォルニア政治制度は、選ばれても、制度の壁で阻まれ、失態を見て住民は愛想を尽かすという「悪魔の循環」で、有権者が自分達の選んだ人間を見下し続ける可能性を最大化するように設計されている。10年間で職員の給与が65%上昇し、高等教育5%減、社会福祉費5%増、講演・保養施設費は同じだったそうだ。
→2010年9/13のシュワルツネッガー来日時前原国交相と面談の本当の目的は州債の購入依頼といわれている。(2兆円購入説もある)
2008年ヴァレーホは破産宣言。警察官・消防士は半分になり機能不全で市民との関係は最悪に。守らない、消せない状況らしい。

<終わりに=私の見解>
ユーロ危機は、壮絶な2回の世界大戦を経験した欧州が再度分裂するかどうかの危機だが、これからも小波乱は繰り返すだろうが、紆余曲折があっても乗り越えて結束強化に向かうと思う。

となるとカイル・バスのような獰猛なヘッジファンドの次なるターゲットは日本になるのか?
1~2年前から日本の国債には多大の問題があるとされている。
・日本の銀行が日本人の預金で購入しているが、団塊世代の退職で今後預金の取り崩しが予想され、国債購入資金がショートするのではないかという懸念。
・そもそも日本の持つ米国絡みの債券の価値がまだ明らかにされていないが既に大きく毀損されているのではないかという疑いが強い。
・日本が米国に持つ金融資産は事実上凍結されており引き出す事は出来ないのではないかという懸念は深まり一般人にも浸透している。
・中韓の台頭等貿易の構造が大きく変化し日本の輸出産業の優位性が急激に失われている状況
・これに福島原発問題が重くのしかかっている。

財務省のTPPや消費税増税の断固たる強行突破姿勢や、米国資本の別働隊と思われる維新の会の活動を見ていると、米国は日本人の健全な勢力を力で押さえ込み、本気で日本の資産の殆どを奪って延命を図ろうとしているように見える。

カイル・バスのヘイマン・アドバイザーズが日本国債のCDSで大儲けして大富豪にならぬよう日本の財政を官僚連合体と子分だけに大甘で、米国の要求に屈し続ける財務省の思うままにさせていてはいけないと強く思います。

しかし、どういうシナリオになるか見続けなければいけないが、これまでの延長線で済む筈はなく、大激変に見舞われる時期が近付きつつある事だけは確かでしょう。