2011年5月3日火曜日

福島原発事故について-その3



3月11日の震災後1ヶ月と20日余が経過。今後の問題点について整理すべき時期だ。
今抱えてしまった大きな問題点は次の5点になろう。

1.東電と政府の損害賠償責任について

2.福島原発放射線の影響と対策

3.福島原発原発事故の実態解明

4.日本の原発政策の本当の意義とは?

5.日本経済に与える影響と増税の可否

どれも日本の根幹に関わる大問題であり政府や多くの専門家が論議している。私の力量の及ぶ範囲で上記5点について私の選んだ見解とその理由について1から順次5回に分けて述べてみたい。

1.東電と政府の損害賠償責任について

「原子力損害の賠償に関する法律」(1961年制定)の意義

今回の福島原発事故で特に問題になりそうな条文、基本的理解の為に押さえておくべき条文に絞ってみた。
原子力損害の賠償に関する法律】
http://www.houko.com/00/01/S36/147.HTM

第2章 原子力損害賠償責任
 第3条(無過失責任と責任の集中等)

福島原発事故の社会的影響も大分明らかになりポイントも絞られてきている。第2章第3条(無過失責任と責任の集中等)の条文は納得のいくわかり易いものだ。事故が起こったら原子炉を作ったメーカーでなく各種下請けでなく核燃料物の輸送業者でなく、原子力事業者に集中している事は被害者にとっては損害賠償責任の追及が、たらいまわしにされなくても済むので良い事だ。(GEに製造物責任が及ばないように作らされたという別問題はあるようだがここでは触れない)

「・・・当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる」


ここまでは誰にも異存はない。問題はその後のただし以降だ。

「ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りではない。」


この条文の解釈については国会での質疑の積み重ねはあるものの、巨大の定義が完全に明確にされておらず解釈の余地が残っている所だ。素直に読めば今回の震災は巨大地震・津波によるので免責ではないかと言う主張は荒唐無稽と簡単には片付けられない。

そこで4月29日の衆院予算委で自民の吉野議員はただし書きを理由に東電免責を主張した。しかし枝野官房長官は国会でも大津波によって事故に至る危険性があると指摘しており、「免責条項に当たる状態ではないと明確に言える」と一蹴している。2005年~07年にかけて共産党の吉井議員が今回の事故を予見するような質問をしていた事も指しているのだろう。今回の原発事故関連の枝野長官の言動で唯一評価出来る部分だと思う。

4月28日東電の社長は「免責という理解もありうる」等と未練たらしく言っているが、流石にこの部分で免責を主張して裁判で争ったりしたら世間が許さないであろう。ちなみに「異常に巨大な」の例として、隕石の衝突が挙げられる(海江田大臣も言及)程であり、このただし書きの適用は極めて制限的なものでなければ危険な原発の設置自体があり得ない事になってしまうと考えられる。

5月1日の参院予算委で民主の森議員は昨年10年6月29日の福島原発2号機の外部電源喪失事故(30分2mも水位が下がったもの)を鋭く追及し、東電が今回の事故を想定外等と言って逃れられる訳が無く免責主張等あり得ないと断じている。この根幹の部分を揺るがしては日本が完全に無責任社会となり大混乱になってしまうので免責の主張は成り立たないであろう。

第3章 損害賠償措置
 第1節 損害賠償措置 第7条(損害賠償措置の内容)
「…原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結若しくは供託であって…一事業所当たり1200億円(…)を原子力損害の賠償にあてる事ができるものとして…」

 第2節 原子力損害賠償責任保険契約 第8条(原子力損害賠償責任保障契約)
「…損害保険会社がうめる事を約し、…」


と保険会社と損害賠償措置額をてん補する保険契約を保険料を払って締結する事を定めている。

 第3節 原子力損害賠償補償契約 第10条(原子力損害賠償補償契約)
「…責任保険契約…によってはうめることができない原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生じる損失を政府が補償することを約し、原子力事業者が補償料を納付する…」

これらの条文を素直に読む限り、東電の負担する損害賠償金は1基当たり1200億円までで済み、それ以上は政府が補償していると言って良いと思う。政府はいったん東電に支払わせそのうちほとぼりが冷めた頃合いを見て補填しようという事も法律的にはまだ十分あり得ると思う。
しかし現状でそれで済むとは到底思えない。政治的にも東電がこの条文を盾にして、ここから先は政府が補償するよう主張したら暴動が起きかねない位の非難の嵐になるだろう。東電は世界的に見て高額の電気料金を徴収して膨大な資産を蓄えている。この条文を文字通り生かすなら第7条の賠償措置額の1200億円では1桁~2桁低過ぎるのではないかと思われる。

現実的政治的解決策は東電を分離して賠償の為の機構を作る等専門家が検討していると思われるのでもう少し政府・東電の動きを見定める必要がある。

日本人がもっと権利・自立意識が成熟していれば、こんな酷い放射線の放出事故に対してはもっと沢山の訴訟や仮処分申請が出て、供託の論議も出てくるのが普通だろう。しかし従属・依存意識が強い人が多い上に東北人は人が良過ぎる人も多いので、次項の供託の項は多分不要だろう。
 
第4章 国の措置 第16条(国の措置)
「…損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、…必要があると認める時は…必要な援助を行うものとする。」

としている。
第3節第10条の規定と第16条の規定が併存することは何故なのか?現時点では私は分からないのでもう少し理解を深める必要がある。いずれにせよこの少し矛盾する?条文の併存が議論を分かりにくいものにしている事は確かだと思う。 


第5章 原子力損害賠償紛争審査会 第18条
「…原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合…自主的な解決に資する一般的な指針の策定に関わる事務を行わせるため、…原子力損害賠償紛争審査会(…「審査会」…)を置く…。」

以上の文言がこの法律の骨格をなす部分であろう。既に審査会のメンバーも決まり第1回の会合も持たれたようだ。どのような「一般的な指針」が作成されるのか論議の方向を十分見守っていく必要がある。特に今回は計画的避難地域等わかりにくい決定がなされている。福島県の20mSvの設定も法律上の損害賠償の範囲を狭める為の方策ではないかと言われている。実際の損害が発生した場合の大きな争点となるだろう。この決定は将来に大き過ぎる禍根を残したものと言えるだろう。

とりあえず今後この問題を考える上でのスタートラインについた段階です。            以上



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