2011年5月28日土曜日

福島原発事故についてーその4

遅くなったが、前回提起した「今抱えてしまった大きな問題点」のうち今回は2番目についてです。
1.東電と政府の損害賠償責任について
2.福島原発放射線の影響と対策
3.福島原発事故の実態解明
4.日本の原発政策の本当の意義とは?
5.日本経済に与える影響と増税の可否

2.福島原発放射線の影響と対策

このテーマも政府・東電が実態を隠すのに必死なので見極めるのに手間取った。ここに来てようやく政府以外の組織・個人や外国メディアから情報が流れだし、実態を覆い隠せなくなって来ている。現段階ではっきりして来た事実を踏まえ考えて見た。

(1)最大の問題点

起こってしまった事があまりにも大き過ぎた為か他に理由があるのかは別に論議が必要だが、政府の方針は次の3つだと思う。言葉の言い回しの巧拙を別にすればある意味方針は一貫しており明確で分かり易い。

①事故が大き過ぎるので国際基準通りにすると退避すべき地区が厖大になり過ぎるのと、損害賠償額がどこまで拡大するか分からないので、事実を出来るだけ隠せる間は「なるべく長く隠蔽する」。後で隠蔽や嘘がバレテも構わない。何事も解決出来ないので誤魔化し曖昧に先延ばしするしかない。

②事故の進展中のリスクが確定出来ず幅がある場合は本当は最大になりそうな事を認識していても、必ず希望的に少なめに評価して発表する。後で過小評価であった事が判明する可能性も強いのだが、「その場さえ凌げれば良い」ので構わない。

③真面目で最低限因果関係が明確になった事しか認めない慎重な学者か、恥知らずの不勉強でおよそ学者とも言えないような人達も見境なく使い、安全でないのに「安全とは言い切れないが安心」だと言う論理をとにかく押し通す事。広島・長崎・原水爆実験・米国の原発関連・チェルノブイリ等の被曝者の被曝の研究はかなりある筈だが、被曝と発症の因果関係についてはグレーゾーンが幅広いので原発推進学者と脱原発・反原発学者とでは評価が分かれていて双方の見解に大きな開きがあるのだ。

この3つで事態を乗り切って行こうとしているが「現実に眼を背けた判断」である事が最大の問題だ。
つまり多くの日本人に「被曝の危険性を伝えない」で、被曝を受忍させ、いろいろな健康障害が出るのも先の事なのでその時になって「健康障害が発生してから対応すれば良い」という考え方である。
中でも許せないのはWHO総会で、今回の事故で多くの被曝者の疫学的調査が可能になり人類に貢献出来る等ととんでもない事を平気で言う大塚厚労副大臣だ。ある程度の発生の可能性を認めていながら避難する事は勧めていない。どう見ても大量人体実験である。やはりエリートの人権意識とはこんなものかという事を再認識させられてしまった。

この方針を死守しようとする意志は極めて強固で何があっても揺るがないようだ。絶対にそれ以外の意見は受け付けない様子を見ると「お粗末な方針を徹底して守り抜こうという意志の強さの源は何なんだろう?」と考えてしまう。

(2)今後のポイント

もう多くの方々が詳細に見解を出してくれているので、大きくは特段何も言う必要は無くなった。チェルノブイリに匹敵する放射能が飛散していて、「これからも長く出続ける事」ははっきりしており、福島や近県は言うに及ばず、東京の程度も酷い状態であることが分かって来たからである。その中で放射能と対峙する上でどう対処したら良いのか、主張したい事や追及が必要なのは次の3点である。

①福島県の「計画的避難区域」の人達は故郷を去らざるを得なかった人達も信念で土地で生き抜く判断をした人達も、キチンと東電・政府に損害賠償請求して貰うべきだがその点がどうなっていくのだろうか?又、福島やそれ以外の地域で実際に被害があるのに風評被害として括られたり自主的に避難した人達の損害賠償はどうなっていくのだろう?→これらのケースに東電・政府は誠実に対応し適切な額を補償すべきであろう。
「警戒区域」の人達に対しても今後の見通しをより正確に判断して早く伝えるべきだ。ある程度の幅はやむを得ないが、なし崩し的にどんどん後ろにズレテいく事だけは避けるべきだ。原発推進の方針が常に楽観的過ぎてなかなか実現しない事例は枚挙に暇がないのだ。

②福島の他の場所(郡山市や福島市等放射能数値の高い場所は特に)の若者・子供達・乳幼児・胎児が本当に心配である。この中から一定の割合の人達が国策の原発の最大の被害者になる可能性が充分あると思う。
東大の中川教授や長崎大の山下教授は立派な学者だろうが、欠点は原発推進のPR役に忠実過ぎると思う。放射能と症状の因果関係を極めて制限的に完全に明確な場合のみ認める人達だと思う。
一方チェルノブイリ等の被害に向き合って来た人達は、因果関係を認められなかった多くの被曝の事例がある事を訴え続けている。ICRPでは認められていないが被曝との関連を窺わせる多くの事例があると思われる。
癌や白血病等の明確な症状には至らない体調不良が水面下で多数存在するのではないか?
国・自治体は少なくとも世界基準を緩和するのに反対の学者の見解を厄介者扱いにせず、謙虚に耳を傾け、住民の懸念を払拭する最大限の努力をすべきなのだ。この点高木大臣以下政務三役・文科省は完全に落第生だ。

③東京等の首都圏ですら放射能の飛散状況は酷いものだ。私は今の所辛うじて東京に踏みとどまっているが、今後の福島原発の状況次第では避難する可能性も念頭に残っている。1~4号機ともいずれも安定にほど遠いが、今後あまり大きな再臨界・水蒸気爆発の危険性がないのであれば放射能を甘受して踏み止まるのだが。
しかし新宿でも高さ18m?の所で計測するのは子供騙しが過ぎる。放射性物質は地上50センチ以内で90%位あると言う話もある。東京も各区毎に1m以内の高さで測定して毎日公表し続ける体制を作るべきだ。又、空気に漂う分の外部被曝は大体わかったが、食品による内部被曝については政府・自治体ともその把握・発表にあまりにも消極的過ぎる。内部被曝の可能性を除外・軽視せず、その危険性についての注意喚起をし対策を公表すべきである。

又、野菜だけでなく海産物の安全性についての情報があまりにも少な過ぎる。水産庁でやらないのであればグリーン・ピースにもっと自由に調査を許可すべきだ。そのうちパニックで東北・関東の魚を今以上に食べない事態になりかねないと思う。

【最後の疑問点】

ヨウ素やセシウムだけでなくストロンチウムやプルトニウム等の危険な核種も計測・発表する体制を作って欲しいが、放射能の放出が続いており数値がまだ増大傾向なのと再臨界の危険性がある時等で逆に公表を抑える動きが再び出始めている。初期のスピーディーの情報も、メルトダウンの情報も全て隠蔽して来たが一応現時点では公表された。しかし唯一プルトニウムについては公式には殆ど情報が出されていない。3号機・4号機の状況について写真・カメラによる内部の情報はまだ全くない状況が続いているし、プルトニウムの毒性についても軽視する発言が多いままだ。軍事機密との絡みもあるのか?本当に触れられたくない事のようだ。

こんな中で脱・反原発学者や市民・ジャーナリストが独自で計測して情報を発信するネットワークはどんどん拡大しているようだ。この動きの拡がりはかってない勢いがあり、これに制限を掛ける事はもはや無理だろう。やれば政権の命取りになるだろう。(やらなくてももう終わるだろうが〉

とにかくこんな隠蔽・嘘つき・逃げ腰・先送り政権は早く消えて無くなれ!

【参考リンク】以下の3つ以外にも多くのツイート等に教えて頂きました。
http://fukumitsu.xii.jp/syu_f/FukushimaGenpatsu_1.html(福島原発事故)
http://kingo999.web.fc2.com/kizyun.html(世界も驚く日本の基準値)
http://gendai.ismedia.jp/articles/print/5688(あなたの町の「本当」の放射線量) 
                                                        以上








2011年5月3日火曜日

福島原発事故について-その3



3月11日の震災後1ヶ月と20日余が経過。今後の問題点について整理すべき時期だ。
今抱えてしまった大きな問題点は次の5点になろう。

1.東電と政府の損害賠償責任について

2.福島原発放射線の影響と対策

3.福島原発原発事故の実態解明

4.日本の原発政策の本当の意義とは?

5.日本経済に与える影響と増税の可否

どれも日本の根幹に関わる大問題であり政府や多くの専門家が論議している。私の力量の及ぶ範囲で上記5点について私の選んだ見解とその理由について1から順次5回に分けて述べてみたい。

1.東電と政府の損害賠償責任について

「原子力損害の賠償に関する法律」(1961年制定)の意義

今回の福島原発事故で特に問題になりそうな条文、基本的理解の為に押さえておくべき条文に絞ってみた。
原子力損害の賠償に関する法律】
http://www.houko.com/00/01/S36/147.HTM

第2章 原子力損害賠償責任
 第3条(無過失責任と責任の集中等)

福島原発事故の社会的影響も大分明らかになりポイントも絞られてきている。第2章第3条(無過失責任と責任の集中等)の条文は納得のいくわかり易いものだ。事故が起こったら原子炉を作ったメーカーでなく各種下請けでなく核燃料物の輸送業者でなく、原子力事業者に集中している事は被害者にとっては損害賠償責任の追及が、たらいまわしにされなくても済むので良い事だ。(GEに製造物責任が及ばないように作らされたという別問題はあるようだがここでは触れない)

「・・・当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる」


ここまでは誰にも異存はない。問題はその後のただし以降だ。

「ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りではない。」


この条文の解釈については国会での質疑の積み重ねはあるものの、巨大の定義が完全に明確にされておらず解釈の余地が残っている所だ。素直に読めば今回の震災は巨大地震・津波によるので免責ではないかと言う主張は荒唐無稽と簡単には片付けられない。

そこで4月29日の衆院予算委で自民の吉野議員はただし書きを理由に東電免責を主張した。しかし枝野官房長官は国会でも大津波によって事故に至る危険性があると指摘しており、「免責条項に当たる状態ではないと明確に言える」と一蹴している。2005年~07年にかけて共産党の吉井議員が今回の事故を予見するような質問をしていた事も指しているのだろう。今回の原発事故関連の枝野長官の言動で唯一評価出来る部分だと思う。

4月28日東電の社長は「免責という理解もありうる」等と未練たらしく言っているが、流石にこの部分で免責を主張して裁判で争ったりしたら世間が許さないであろう。ちなみに「異常に巨大な」の例として、隕石の衝突が挙げられる(海江田大臣も言及)程であり、このただし書きの適用は極めて制限的なものでなければ危険な原発の設置自体があり得ない事になってしまうと考えられる。

5月1日の参院予算委で民主の森議員は昨年10年6月29日の福島原発2号機の外部電源喪失事故(30分2mも水位が下がったもの)を鋭く追及し、東電が今回の事故を想定外等と言って逃れられる訳が無く免責主張等あり得ないと断じている。この根幹の部分を揺るがしては日本が完全に無責任社会となり大混乱になってしまうので免責の主張は成り立たないであろう。

第3章 損害賠償措置
 第1節 損害賠償措置 第7条(損害賠償措置の内容)
「…原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結若しくは供託であって…一事業所当たり1200億円(…)を原子力損害の賠償にあてる事ができるものとして…」

 第2節 原子力損害賠償責任保険契約 第8条(原子力損害賠償責任保障契約)
「…損害保険会社がうめる事を約し、…」


と保険会社と損害賠償措置額をてん補する保険契約を保険料を払って締結する事を定めている。

 第3節 原子力損害賠償補償契約 第10条(原子力損害賠償補償契約)
「…責任保険契約…によってはうめることができない原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生じる損失を政府が補償することを約し、原子力事業者が補償料を納付する…」

これらの条文を素直に読む限り、東電の負担する損害賠償金は1基当たり1200億円までで済み、それ以上は政府が補償していると言って良いと思う。政府はいったん東電に支払わせそのうちほとぼりが冷めた頃合いを見て補填しようという事も法律的にはまだ十分あり得ると思う。
しかし現状でそれで済むとは到底思えない。政治的にも東電がこの条文を盾にして、ここから先は政府が補償するよう主張したら暴動が起きかねない位の非難の嵐になるだろう。東電は世界的に見て高額の電気料金を徴収して膨大な資産を蓄えている。この条文を文字通り生かすなら第7条の賠償措置額の1200億円では1桁~2桁低過ぎるのではないかと思われる。

現実的政治的解決策は東電を分離して賠償の為の機構を作る等専門家が検討していると思われるのでもう少し政府・東電の動きを見定める必要がある。

日本人がもっと権利・自立意識が成熟していれば、こんな酷い放射線の放出事故に対してはもっと沢山の訴訟や仮処分申請が出て、供託の論議も出てくるのが普通だろう。しかし従属・依存意識が強い人が多い上に東北人は人が良過ぎる人も多いので、次項の供託の項は多分不要だろう。
 
第4章 国の措置 第16条(国の措置)
「…損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、…必要があると認める時は…必要な援助を行うものとする。」

としている。
第3節第10条の規定と第16条の規定が併存することは何故なのか?現時点では私は分からないのでもう少し理解を深める必要がある。いずれにせよこの少し矛盾する?条文の併存が議論を分かりにくいものにしている事は確かだと思う。 


第5章 原子力損害賠償紛争審査会 第18条
「…原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合…自主的な解決に資する一般的な指針の策定に関わる事務を行わせるため、…原子力損害賠償紛争審査会(…「審査会」…)を置く…。」

以上の文言がこの法律の骨格をなす部分であろう。既に審査会のメンバーも決まり第1回の会合も持たれたようだ。どのような「一般的な指針」が作成されるのか論議の方向を十分見守っていく必要がある。特に今回は計画的避難地域等わかりにくい決定がなされている。福島県の20mSvの設定も法律上の損害賠償の範囲を狭める為の方策ではないかと言われている。実際の損害が発生した場合の大きな争点となるだろう。この決定は将来に大き過ぎる禍根を残したものと言えるだろう。

とりあえず今後この問題を考える上でのスタートラインについた段階です。            以上